弱火とは火を弱くすることではありません~熱の伝わり方で料理は変わる
今日も暑いですね。
作業場も暑いです。汗拭きながら頑張っています。
お待たせしている方には申し訳ないです。
もう少々お待ちください。
弱火とは、火を弱くすることではありません
前回は、「時間は素材の力を引き出す道具」というお話を書きました。
熱は素材の中をゆっくり旅をします。
そして、その旅をする時間があるからこそ、お肉はやわらかくなり、野菜は甘くなり、香りも少しずつ育っていきます。
では、その時間はどうやって作ればいいのでしょうか。
料理の本を読むと、よくこんな言葉が出てきます。
「弱火でじっくり焼きましょう。」
きっと皆さんも、一度は目にしたことがあります
でも私は、この「弱火」という言葉は少し誤解されやすいように思っています。
弱火と言われると、多くの人は「炎を小さくすること」を思い浮かべます。
もちろん、それも間違いではありません。
でも、本当に大切なのは炎の大きさではないんです。
私たちが欲しいのは、火を小さくすることではありません。
素材の中心まで、ゆっくり熱を届けることです。
つまり弱火とは、
火力ではなく、熱の入れ方。
私はそんなふうに考えています。
例えばハンバーグです。
最初から最後まで強火で焼けば、表面はすぐに美味しそうな焼き色になります。
でも、中はまだ火が通ってなかったり‥‥
だから「もう少し焼こう」と火にかけ続けると、外側はどんどん焼けていきます。
その間にも、お肉の中ではたんぱく質が収縮し、水分は少しずつ押し出されていきます。
気が付けば中に火を通すあまり、外は焦げて硬くなり、それでも中はまだ十分に火が通っていない。
そんな経験をされた方もあるのではないでしょうか。
鶏もも肉も同じです。
皮はきれいに焼けた。でも切ってみると、まだ少し赤い。だから、もう少し焼く。
すると今度は、お肉が少し締まり過ぎてしまう。
鶏むね肉なら、もっと分かりやすいかもしれません。
「あと少しだけ。」
そう思って焼いた数分で、食べたときにはパサパサになってしまうことがあります。
では、ここで考えてみたいんです。
私たちが本当に欲しいのは、弱い炎なのでしょうか。
違いますよね。
欲しいのは、中までちょうどよく火が通ること。
そのために弱火という調理方法を使っているんです。
だから私は、弱火とは「炎の大きさ」ではなく、
素材へ熱を届けるための考え方なのだと思っています。
そして、この話になると、とても大切になってくるのがフライパンです。
「えっ、ここでフライパン?」
そう思われるかもしれません。
でも実は、弱火という調理を考えるとき、フライパンはとても大きな役割を持っています。
例えば、アルミのフライパンと鉄のフライパン。
同じコンロで、同じ火加減で焼いたとしても、焼き上がりは意外と違います。
料理をされる方なら、「なんとなく焼き方が違うな。」そんなふうに感じたことがあるかもしれません。
その「なんとなく」は、気のせいではありません。
材料が違えば、熱の伝わり方も、熱の持ち方も違うからです。
さらに、私たちが作っている鉄フライパンでも、板厚が変わると熱の入り方は変わります。
板厚が厚くなると、火から受けた熱はフライパン全体へゆっくり広がります。
熱が一点に集中しにくくなり、素材へ比較的穏やかに熱を伝えやすくなります。
そしてもう一つ。
板厚があるフライパンは熱を蓄える力も大きくなります。
だから、お肉を入れても温度が急激に下がりにくく、中までじっくり熱を届けやすくなるんです。
反対に、板厚が薄いフライパンは反応が速くなります。
火を強くすればすぐ温まり、火を弱くすれば温度も変わりやすい。
この反応の良さは、炒め物などでは大きな魅力になります。
では、厚いフライパンが一番良いのでしょうか。
薄いフライパンの方が優れているのでしょうか。
実は、そういう話ではありません。
料理によって、欲しい熱の伝わり方が違うからです。
だから私たちは、板厚を何種類も作っています。
深さも変えています。
大きさも変えています。
「厚いフライパンを作りたい。」
「軽いフライパンを作りたい。」
そう考えているのではありません。
この料理なら、どんな熱の伝わり方がいいだろう。
この素材なら、どんな熱の入り方が力を引き出せるだろう。
そんなことを考えながら、一つひとつの形を決めています。
つまり私たちが作っているのは、フライパンという道具だけではなく、
料理に合わせた熱の伝わり方なのかもしれません。
ただ、一つだけ勘違いしてほしくないことがあります。
板厚があるから失敗しないわけではありません。
熱を蓄えるということは、それだけ熱が残るということでもあります。
だから、弱火だから焦げないということでもないんです。
大切なのは、炎を見ることでも、フライパンを見ることでもありません。
今、素材の中へどれくらい熱が届いているのか。
そこを感じながら料理をすること。
私は、それが本当の意味での「弱火」なのではないかと思っています。













