ケチャップの特性を知ってパスタやオムライスを香ばしく作る
ナポリタンを作るときや、オムライスをちょっと香ばしく仕上げたいとき、ケチャップを鉄フライパンで炒める方は多いと思います。
ところが、「いつも通り炒めたつもりなのに、
ケチャップが分離して赤い液体が出てきてしまった」「粘りがなくなって、見た目も味もぼやけた感じになる」――そんな経験、ありませんか?
実はこれ、ケチャップの中に含まれている“ペクチン”という成分が高温で壊れてしまったことで起こる、ちょっとした化学的な現象なんです。
なので、この理由を知っていただけると、より美味しく、より楽しく、フライパンを使っていただけると考えています。
ケチャップは一見すると、なめらかで均一なとろみがありますが、その中身は水分・トマトペースト・酢・砂糖・塩・スパイスなど性質の違うものが混ざり合ってできています。
普通なら水と油はすぐに分かれてしまうはずですが、ケチャップはそうならず、うまく一体化して見える。
これを支えているのが、トマトに含まれる天然の“ペクチン”という成分です
(※ケチャップのメーカーによっては、ここに加工でんぷんや増粘剤が使われている場合もありますが、今回はそれらを使っていないシンプルなケチャップを前提にお話ししています)
このペクチンが、水分や油分をネット状に包み込んで、とろみを作っているんです
ところが、このペクチン、熱にあまり強くありません。
一般的には、80℃くらいまでは安定していますが、90℃を超えてくると構造が緩み始め、100℃以上になると一気に粘りが失われてしまう性質があります。
特に鉄フライパンは、高温で使うこともあるため強火で加熱すると底面の温度が一気に120〜150℃に達することも珍しくありません。
こうなると、ペクチンの構造は壊れ、とろみがなくなり、油分や水分、トマトの繊維がバラバラに分かれてしまいます。
そしてその結果として、フライパンの中に赤い液体がにじみ出るという、あの“分離現象”が起きてしまうんです。
でもご安心ください。
熱の入り方とタイミングとちょっとした工夫で、この分離は防ぐことができますし、逆に楽しめることもできます。
たとえば、ケチャップは最初からフライパンに入れず、具材を先に炒めて、最後にケチャップを加えて弱火でじっくり混ぜる。
または、水やトマトジュースを少し加えてあらかじめのばしておけば、温度の上がりすぎも抑えられます。
ケチャップを「炒める」ではなく、「温める」「香りを立てる」ような気持ちで扱っていただくと、分離せずに、味も見た目もとてもきれいに仕上がります。
それにあえて分離するようなゾーンに持っていって、その味をって言う楽しみ方もあります。
実際私はその味が好きだったりします。
私たちの鉄フライパンは、熱をしっかりためて、素材のうまみを引き出すことに長けたタイプもあります。
だからこそ、調味料の性質にも少しだけ目を向けていただけると、いつもの料理がぐんと美味しくなるんです。
ケチャップのとろみがうまく残った、香ばしいナポリタンやオムライス――それを実現するコツは、ペクチンという自然の力をちょっとだけ理解して、やさしい火加減で仕上げることなんです。
鉄フライパンは道具ですが、ちょっとしたコツを知れば、料理がもっと面白く、奥深くなります。
これからも、長く、楽しく、お使いいただけるよう、私たちも情報をお伝えしてまいりますので、ぜひご自身のフライパンと向き合いながら、日々の料理を楽しんでいただけたら嬉しいです。
ペクチンの温度変化の表
あえて細かく書きました
温度帯(目安) ペクチンの状態 見た目・食感の変化 備考
〜70℃ 安定しており、粘性を保っている ケチャップ本来のとろみと一体感がある 湯煎や弱火加熱で調理される程度
80〜90℃ 少しずつ構造がゆるみ始める わずかに粘性が落ちる、分離の兆しはまだ少ない 安定しているが、長時間の加熱は注意
90〜100℃ ゲル構造が壊れ始める とろみが弱まり、油や赤い液体が出やすくなる 中火以上では加熱時間に注意が必要
100〜120℃ 急激に粘性を失い、分離が始まる 油が浮き、トマト成分と水分が分かれてくる 鉄フライパンでの炒めすぎに要注意
120℃以上 ペクチンの構造が完全に崩壊 赤い油状の液体が出て、ケチャップがバラバラに 鉄フライパンの強火調理で起こりやすい
補足説明
ペクチンは自然由来の成分なので、分解温度には多少の幅があります。
ケチャップのpH(酸性)や糖度によっても変性のタイミングは前後します