焼くと食材はどう変わる?キャベツ・卵・ホットケーキで考える「熱」の話
焼くと食材はどう変わる?キャベツ・卵・ホットケーキで考えてみました
前回は、「弱火とは、火を弱くすることではありません」というお話を書きました。
弱火というのは、ただコンロの炎を小さくすることではなく、
「食材の中へ、どうやって熱を届けるか」
そんなふうに考えてみると、いつもの料理もちょっと違って見えてきます。
では今回は、その続きです。
フライパンから食材へ熱が伝わったあと、食材の中では、一体何が起きているのでしょう?
考えてみれば、これって結構不思議なんです。
キャベツを焼けば甘くなる。
卵を焼けば固まる。
ホットケーキを焼けば、ふっくらして焼き色がつく。
全部同じように「フライパンで焼く」と言っているのに、起きていることは全然違います。
だったら今回は、「焼くって、そもそも何なんだろう?」
そんなところから考えてみたいと思います。
キャベツを焼くと、なぜ甘く感じるのでしょう?
まずはキャベツです。
生のキャベツを食べると、シャキシャキしていますよね。
少し青っぽい香りもあります。
それがフライパンで焼いていくと、だんだん様子が変わってきます。
しんなりしてきて、「あれ?ちょっと甘くなった?」
さらに焼いていくと、今度は焼き色がついて香ばしい香りがしてきます。
同じキャベツなのに不思議です。
キャベツを加熱すると、組織がやわらかくなり、水分の状態も変わっていきます。
そのため、生のときとは食感も味の感じ方も変わり、青っぽさが弱まることで甘みも感じやすくなります。
さらに水分が抜けていけば、味も濃く感じやすくなります。
だから、「キャベツって、こんなに甘かったっけ?」となるわけです。
ところがです。
ここで面白いのが、焼けば焼くほど、おいしくなるわけではない、ということ。
さらに焼き続ければ、水分はどんどん抜けていきます。
しんなりを通り越して、今度は乾いた感じになってくる。
そして、その先まで焼けば焦げて苦くなります。
ということは、
シャキシャキしているところ。
少しやわらかくなったところ。
甘みを感じるところ。
焼き色がついて香ばしくなったところ。
そして、その先には乾いたところや焦げたところまである。
その途中のどこかに、「ここ、おいしい!!」という場所があるわけです。
でも、それも一か所ではありません。
少し歯ごたえを残したキャベツがおいしい料理もあります。
逆に、じっくり焼いて甘みを引き出した方がおいしい料理もあります。
焼き色をしっかりつけて、香ばしさを楽しみたいことだってあります。
つまり料理によって、どこまで熱を入れるとおいしいのかが違うんです。
卵は、なぜ焼くと固まるのでしょう?
では次は卵です。
溶いた卵をフライパンに流してみます。
最初は当然、液体です。
ところが熱が入ってくると、フライパンに触れているところから少しずつ固まり始めます。
箸で動かしていると、液体だった卵が、とろっとしてきます。
そして、ふわっと固まってくる。
料理をしていれば何度も見ている光景です。
でも、改めて考えると、「なんで液体だった卵が固まるんだろう?」って思いませんか?
これは、卵に含まれるたんぱく質が熱によって変化するからです。
たんぱく質は加熱されると構造が変わり、互いにつながり合うことで、液体だった卵が固まっていきます。
ただし、固まったら終わり。ではありません。
ここからさらに熱を入れ続けると、卵はだんだん締まってきます。
そして水分も失われ、今度は硬くなっていきます。
つまり卵は、
液体 → とろっとする → 固まる → 締まる → 硬くなる
と変わっていくわけです。
そして、ここが料理の面白いところです。
スクランブルエッグなら、とろっとした感じを残したい。
薄焼き卵なら、もう少ししっかり固めたい。
料理によっては、少し焼き色がついた卵がおいしいこともあります。
同じ卵なのに、どこで火を止めるかによって、出来上がる料理が変わる。
これって面白くないですか?
ホットケーキは、焼き色がつけば中まで焼けている?
では、もう一つ。
今度はホットケーキです。
ホットケーキの生地をフライパンに流した瞬間は、ドロッとしています。
それが焼いているうちに、少しずつ膨らんできます。
表面にはプツプツと穴が出てきて、中の生地も固まっていきます。
そして、ひっくり返してみると……
「おお、いい色!」
なんて、ちょっと嬉しくなります。
ところが。見た目は完璧だったのに、食べてみたら、
「あれ?中がちょっと生っぽい……」
そんな経験ありませんか?
私はあります。
これも「焼く」を考えると、とても面白い現象です。
ホットケーキの表面と中心では、熱の届き方が違うからです。
フライパンに直接触れている部分には、早く熱が伝わります。
だから表面には先に焼き色がつきます。
でも、その熱がホットケーキの中心まで届くには時間がかかります。
しかも、ホットケーキの場合はもう一つ面白いことが起こっています。
焼いている途中で、生地そのものが膨らんでいくんです。
ホットケーキの生地の中では、加熱によって気泡が膨らみ、生地の中にたくさんの小さな空間ができます。
あの、ふわふわした断面ですね。
ふっくらして、「おいしそう!」となるところです。
ところが熱の立場から見ると、少し事情が違います。
空気は、生地の水分などに比べると熱を伝えにくいものです。
つまりホットケーキは、焼かれて膨らんでいくことで、生地の中にたくさんの「空気の壁」を作っていくとも考えられます。
熱を加えているのに、その熱によって生地が膨らみ、気泡が増えることで、中心へは熱が伝わりにくくなっていく。
ちょっと面白くないですか?
焼き始めたときと、ふっくら膨らんだ後では、熱が通っていく相手そのものが変わっているんです。
しかもホットケーキには厚みがあります。
フライパンに触れている底の部分では、どんどん焼き色がついていく。
一方、中心では気泡をたくさん含んだ生地の中を、熱が少しずつ進んでいく。
つまり、
表面ではもう焼き色ができているのに、中心ではまだ熱が旅をしている途中ということが起こります。
これ、前回お話ししたハンバーグとよく似ています。
外側はもう焼けている。でも中では、まだ熱が旅をしている途中なんです。
だから、
「早く焼きたいから火を強くしよう!」
とすればいいわけでもありません。
火を強くすると、フライパンに触れている表面にはさらに強く熱が入ります。
でも、それで中心への熱の移動が同じように速くなるわけではありません。
むしろ表面だけがどんどん先へ進んでしまいます。
きれいな焼き色なのに中はまだ生。
あるいは中まで火を通そうとしたら、今度は表面が焼けすぎた。
これも、料理ではよくあることですよね。
同じ「焼く」なのに、起きていることは全然違う
キャベツ。
卵。
ホットケーキ。
どれも特別な食材ではありません。
冷蔵庫にあったり、普段の朝ごはんに登場したりする身近なものです。
でも、こうして並べてみると面白いんです。
同じフライパンで、同じように「焼く」と言っているのに、
食材の中で起きていることは全然違います。
キャベツは、熱によってやわらかくなり、水分や香りが変化して、甘みの感じ方も変わっていく。
卵は、たんぱく質が熱によって変化して、液体から固体へ変わっていく。
そしてホットケーキは、生地が膨らみながら固まり、その膨らむ過程で内部には気泡が増えていく。
同時に、フライパンに触れている表面では焼き色や香ばしい香りが生まれていきます。
でも、この3つには一つ共通していることがあります。
それは、
おいしいところを通り過ぎると、また違う状態になってしまうこと。
なんです。
料理は「何分焼くか」だけではないのかもしれません
私たちは普段、
「中火で5分」
「弱火で10分」
「焼き色がつくまで」
という言葉を頼りに料理をしています。
もちろん、それは大切な目安です。
でも、本当に見たいものは、時計でも、コンロの炎でも、レシピに書いてある数字でもないのかもしれません。
キャベツは今、どのくらいやわらかくなったのか。
卵は今、どのくらい固まったのか。
ホットケーキはどのくらい膨らんで、中心までどのくらい熱が届いているのか。
つまり、
「今、食材がどこまで変化しているのか」
そこを見ることなんじゃないでしょうか。
前回、「弱火とは火を弱くすることではなく、素材へ熱をどう届けるかという考え方なのではないか」と書きました。
今回の話は、その続きです。
熱を届けたら、今度は食材を見る。
そして、
「そろそろかな」
「いや、もう少しかな」
「ここだな」
そんなふうに食材の変化を見ながら火を入れていく。
そう考えてみると料理って、
決められた時間まで加熱することではなく、
食材がおいしい状態になったところを見つけて、そこで熱を止めること
なのかもしれません。
そして、ここまで考えてみると、もう一つ気になるものがあります。
キャベツにも、
卵にも、
ホットケーキにも出てきたもの。
そうです。「焼き色」です。
私たちは焼き色を見ると「おいしそう!」と思います。
実際、焼き色がついたところには、独特の香ばしい香りがあります。
でも、よく考えてみると不思議ですよね。
焼く前にはなかった色です。
焼く前にはなかった香りです。
一体、フライパンの上で何が起きて、あの色と香りが生まれたのでしょう?
次は、「焼くと、なぜおいしそうな香りが生まれるのか?」
そんな話をしてみたいと思います。












