温度で料理はどう変わる?焼き色、水分、そして鉄フライパンの話
温度で料理はどう変わる?
前回は「鉄フライパンで焼くと、素材はどう変わる?」というお話を書きました。
今回はその続きです。
同じ豚肉。
同じ玉ねぎ。
同じフライパン。
それなのに、ある日は香ばしく焼けて、ある日は少し煮たような仕上がりになる。
料理をしていると、そんなことがあります。
その違いを作っている大きな要素の一つが温度です。
私たちは普段、「火加減」という言葉を使います。
でも実際には、食材は温度によってまったく違う反応を見せています。
今日はそのお話です。
40~50℃付近
まだ焼く温度ではありませんが、素材の変化が始まる温度です。
卵の白身が少しずつ白くなり始めたり、魚の身が少し締まり始めたりします。
見た目の変化は小さいのですが、食材の中では少しずつ変化が始まっています。
60℃付近
料理ではとても面白い温度帯です。
肉のタンパク質が変化し始めます。
低温調理が人気なのもこの辺りからです。
また、しめじやしいたけなどのきのこ類は、60~70℃付近で旨味に関係する酵素が働きやすいと言われています。
見た目はそれほど変わらなくても、食材の中では着実に変化が進んでいます。
70~80℃付近
肉に火が通り始めます。
卵もほぼ固まります。
一方でタンパク質の収縮も強くなります。
加熱を続けると水分が押し出され、パサつきの原因になることもあります。
100℃付近
ここで重要なのが水です。
食材の表面に水分が残っている間は、表面温度はなかなか100℃以上になりません。
肉から肉汁が出る。野菜から水が出る。チャーハンがベチャっとする。
こうした現象の多くは、水分が熱を持っていってしまうことで起こります。
料理は火との勝負だと思われがちですが、実際には水との勝負でもあります。
140~180℃付近
ここから料理らしい香りが出始めます。
玉ねぎの甘みが増したり、パンに焼き色が付いたりします。
ただし、ニンニクなどはこの辺りでは明確に焦げます。
食材によって得意な温度は違います。
200~240℃付近
多くの焼き物がおいしくなる温度帯です。
ステーキの焼き色。
豚肉の香ばしさ。
チャーハンのパラッとした仕上がり。
こうした料理では上手に使いたい温度帯です。
特に家庭でよく使う薄切り肉は、温度が足りないと肉汁が先に出てしまい、焼くというより煮るに近い状態になりやすくなります。
逆に十分な温度があると、表面に香ばしい焼き色が付きやすくなります。
鉄フライパンが得意なのもこの辺りもあるからです。
240~260℃付近
ここからは素材によって差が大きくなります。
肉なら力強い焼き色が付きます。
一方で玉子や香辛料は短時間で焦げやすくなります。
野菜も甘みから苦味へ向かい始めます。
香ばしさと焦げの境界線と言える温度帯です。
なぜ生姜焼きが「焼いた感じ」にならないことがあるのか
例えば生姜焼きを作った時。
しっかり焼き色が付き、香ばしい生姜焼きになる時もあれば、少し煮たような仕上がりになる時もあります。
どちらもおいしいし好みだと思いますが、出来上がりはかなり違います。
その理由の一つが表面の水分です。
フライパンの温度が十分に上がる前に肉を入れる。
一度にたくさん入れる。
フライパンが処理できる量を超えてしまう。
早く作ろうとして次々に材料を入れる。
すると肉から出た水分がフライパンの熱を奪い、表面温度が上がりにくくなります。
結果として焼くというより、タンパク質の収縮が始まり、先に肉汁が出てしまい結果肉汁で煮るような‥‥そんな加熱される状態に近くなります。
それが「少し煮たような生姜焼き」になる理由の一つです。
逆に十分な温度が保たれていると、焼き色が付き、香ばしい生姜焼きになります。
どちらが正解という話ではありません。
ただ、出来上がりが違う理由はそこにあります。
フライパンにも「許容量」がある
ここで少し面白い話があります。
同じ肉を焼いても、同じ結果になるとは限りません。
実はフライパンにも、それぞれ得意な量があります。
板厚が薄いフライパン。
板厚が厚いフライパン。
大きなフライパン。
小さなフライパン。
それぞれ熱の蓄え方が違います。
例えば厚みのある鉄フライパンは、たくさんの熱を蓄えています。
そのため肉を入れた時も温度が下がりにくく、焼き色が付きやすい傾向があります。
一方で薄いフライパンは軽くて振りやすい反面、一度にたくさんの食材を入れると温度が下がりやすくなります。
もちろん、だからどちらが良くて、どちらが駄目で、という話ではありません。
大切なのは、そのお料理や焼き方で何を目指すか、そしてフライパンがどのくらいの量を得意としているかを考えてあげることです。
今日は豚肉を2枚焼くのか。4枚焼くのか。
その肉は、常温なのか、または冷蔵庫から出し立てで冷めているのか。
玉ねぎも一緒に入れるのか。
そういった条件によって結果は変わります。
料理を続けていると、
「このフライパンならこのくらいまでは大丈夫そうだな」
「今日はちょっと入れ過ぎたかな」
という感覚が少しずつ見えてきます。
鉄フライパンの面白さ
鉄フライパンを使っていると、不思議と素材を見るようになります。
今日は肉が多いな。
少し量を減らして焼こうかな。
この肉は焼き色を付けたいな。
今日は少ししっとり仕上げたいな。
そんなことを考えるようになります。
フライパンに合わせると言ったら少しおこがましいかもしれません。
でも実際には、
素材を見る。火を見る。そしてフライパンを見る。
そんな感覚があります。
このフライパンなら、このくらいの量は大丈夫そう。
今日は少し多いから二回に分けよう。
もう少し温度を上げてから入れよう。
そうやって料理を組み立てていくと、結果が少しずつ変わってきます。
温度が足りなければ結果が変わる。
量が多ければ結果が変わる。
水分が出れば結果が変わる。
フライパンの持っている熱量でも結果が変わる。
その変化が見えるのが鉄フライパンの面白さです。
低温から高温まで使える。
じっくり火を入れることもできる。
一気に焼き上げることもできる。
そして料理をしながら、
「なぜ今日はこうなったのだろう」
を考えられる。
だから鉄フライパンは単なる調理道具ではなく、料理を観察する道具でもあるのかもしれません。
温度によって料理は変わります。
そして、その変化を楽しめるのが鉄フライパンの魅力だと思うのです。











