味が決まらない理由は、油かもしれない。煙点を知ると料理が変わる話

味に意識が向きがちだからこそ、油の話をしておきたい


料理をするとき、「おいしいものを作りたい」と思えば、どうしても意識は味に向かいます。

塩、しょうゆ、味噌、砂糖。どの調味料を、どれくらい入れるか。素材にどう火を入れるか。
そこを考えるのは、料理をするうえで、とても自然なことです。

ただ、ある程度料理を重ねてくると、こんな場面に出会うことがあります。

味は合っているはず。失敗した感じもしない。でも、なぜか「決まらない」

薄いわけでもない。濃すぎるわけでもない。なのに、食べ終わったあとに残る印象が、少しぼんやりしている。
このとき、見落とされがちなのが油です。

油は主張しません。でも、料理全体の輪郭や、後味、完成度を静かに左右しているのは確かだと思っています。

 



油には「熱に強いもの」と「熱に弱いもの」がある


油の違いは、感覚だけの話ではありません。

食品科学の分野では煙点(スモークポイント) という指標があります。これは、油を加熱したときに煙が出始める温度のことです。
この数字を見ると、油ごとの性格がはっきりしてきます。

たとえば、米油や太白ごま油は、おおよそ 230〜250℃前後。フライパンをしっかり温めて、「ジュッ」と音が出るような状態でも、比較的安定しています。
一方で、エクストラバージンオリーブオイルは 160〜190℃程度。えごま油やしそ油は 130〜160℃ほど。

家庭のキッチンで、強火にしてフライパンがしっかり温まった状態というのは、だいたい 200℃を超えている ことが多い。
つまり、同じ感覚で使えば、香りが飛んだり、えぐみや苦味が出やすくなるのは、ある意味、当然なんです。

「この油、なんだか扱いにくいな」と感じるとき。それは油の質が悪いのではなく、その油の性格に合わない使い方をしていた
というだけのことも、結構あります。



一種類で通さず、工程ごとに役割を分ける


ここで、考え方を少し切り替えてみてください。

油は、一種類で最初から最後まで通す必要はありません。
調理の最初、フライパンを温めて、食材を焼きつける段階で必要なのは、強い香りよりも、安定した油膜です。

この工程では、
• 米油
• 太白ごま油
• ブレンドされたサラダ油
こういった油が、きちんと仕事をしてくれます。

個人的には、ラード や、焙煎が強すぎないやわらかいごま油 、米油もおすすめです。
理由は単純で、火が強くても機嫌を変えにくく、前に出すぎず、でもちゃんと支えてくれる。
油として「黙って仕事をしてくれる」タイプなんですね。



香らせる油は、最後に少しだけ


そして仕上げ。

火が入り、料理が完成に近づいたところで、はじめて 香りのある油 を使います。
エクストラバージンオリーブオイルを、ひと回し。焙煎ごま油を、ほんの数滴。
それだけで、料理の輪郭がはっきりします。

同じごま油でも、
• 太白ごま油は「加熱用」
• 焙煎が強いごま油は「香りづけ用」
焙煎の度合いによって、役割が変わる。このあたりが、ごま油の面白さでもあります。

煙点の違いを知ってから使うと、「ああ、だからか」と妙に腑に落ちる瞬間が出てきます。


数字は判断材料。最後は自分の感覚でいい


煙点の数字は、守るためのルールではありません。
「なぜ、そう感じたのか」を説明してくれる材料だと思っています。

家庭のキッチンで、温度計を見ながら料理をする人は、ほとんどいません。
• この油、強火だと調子が悪いな
• ここは火を落としたほうが気持ちいいな
そう感じた自分の感覚を、信じていい。
科学的な数字と、日々の感覚。その間に、少し距離を保つくらいが、いちばん使いやすいと思います。

煮物に醤油を入れるとき、大さじ何杯よりも、色を見て判断することがある。
油も、それと少し似ています。



油は主役じゃない。でも、料理は確実に変わる


もう一度お伝えしておきますが、油は主役ではありません。

でも、
• 焼くための油
• 香らせるための油
この二つを意識するだけで、料理の選択肢は、確実に増えます。

上手く作るため、というより、気持ちよく食べるため。
次に炒め物をするとき、最初の油と、仕上げの油を少しだけ分けてみてください。
それだけで、台所の景色は、少し違って見えてくるはずです。


 

2026年01月23日