豚の生姜焼きが、いつもよりおいしく感じる理由
豚の生姜焼きが、いつもよりおいしく感じる理由
── 火と生姜で起きている、静かな変化の話
豚の生姜焼き。派手ではないけれど、なぜか定期的に食べたくなる料理です。
冷蔵庫に豚肉があって生姜があれば、「今日はこれでいいか」ではなく、「今日はこれでいこう、」と思える一皿。
材料も工程もシンプル。だからこそ、ほんの少しの違いが、味や食後の感じにそのまま表れてきます。
今日は、生姜焼きの中で起きていることを書きたいと思います。
豚肉は、焼かれている間に静かに変わっている
フライパンに豚肉を入れると、ジュッという音と一緒に色が変わっていきます。
見た目には一瞬の出来事ですが、その間、豚肉の中ではたんぱく質が反応しています。
食品科学の分野では、豚肉の筋肉たんぱく質は、
・40℃前後でゆるみ始め・50〜60℃で固まり、水分を外に出しやすくなり・70℃以上になると、水分が一気に抜けて(別の言い方をすると、うま味が縮むように感じます)固くなりやすい
とされています。
つまり、火を入れすぎると、お肉の中の水分が逃げてしまい、「ちょっと硬い」「パサつく」仕上がりになりやすい。
逆に言えば、焼きすぎなければ、豚肉はちゃんとやわらかい。
フライパンをしっかり温め、長く火を強くしすぎず、焼き色がついたら落ち着かせる。
それだけで、噛んだときの印象は大きく変わります。
生姜は、火の入り方で役割が変わる
生姜焼きの生姜。実は、この生姜がとても奥深い存在です。
生姜の辛味のもとになる成分はジンゲロールと呼ばれています。
この成分は、加熱されることでショウガオールという成分に変わることが知られています。
この変化が、味や香り、体への感じ方の違いを生みます。
生姜を早めに入れた場合/後のほうに入れた場合
生姜を早い段階で加えると、加熱時間が長くなります。
その結果、
・辛味がやわらぐ・味が全体になじむ・体を温める作用が持続しやすい
生姜が前に出るというより、料理全体を支える存在になります。
一方、仕上げに近いタイミングで加えると、加熱時間が短くなります。
この場合、
・香りが立ちやすい・ピリッとした辛味が残り酵素が残りやすくなります
これは生姜に含まれる**揮発しやすい香り成分(シネオールなど)**が熱で飛びやすい性質を持っているためです。
同じ生姜でも、火の入り方で、印象ははっきり変わります。
生姜焼きが、意外と重くならない理由
豚肉と聞くと部位にもよりますが、脂っこかったり、それが「ちょっと重たいかも」と感じることもあります。
でも、生姜焼きを食べたあと、思ったより胃がラクだった、そんな経験はありませんか?
生姜には、
・消化液の分泌を助ける・胃腸の動きをサポートする
といった働きがあることが報告されています。
そのため、生姜焼きは作り方次第で、あとが軽い料理になります。
しっかり食べたのに、体が重たくならない。
この感覚は、年齢を重ねるほど、ありがたく感じます。
最後に、意外と効く隠し味
ここからは、いつもの生姜焼きにほんの少しだけ変化をつける話です。
砂糖を少し入れると言うのは、ご存知の方だと思いますが、その他に↓
工夫① 玉ねぎのすりおろし
玉ねぎを少しすりおろして、タレに加えてみてください。
玉ねぎに含まれる成分には、たんぱく質の分解を助ける、自然な甘みで味をまとめる働きがあります。
砂糖を増やさなくても、味が少しやさしくまとまります。
工夫② 白ごまは、すりごまで
白ごまを使うなら、すりごま。ごまに含まれる脂溶性の栄養は、すったほうが吸収されやすいとされています。
香りも立ちすぎず、タレにコクが出ます。
工夫③
だしを取るとき、仕上げにかつお節を足す「追い鰹」という方法があります。
生姜焼きにも、それに少し似た考え方で追い生姜 です。
追い鰹が「旨味」を足すものだとしたら、追い生姜は香りと、加熱で減りやすい栄養を補うイメージ。
やり方はとても簡単です。
火を止める直前、または火を止めてから、ほんの少しだけ生姜を加える。
量は、少しで十分です。
生姜に含まれるジンゲロールや香り成分は、長時間の加熱で減りやすいことが分かっています。
追い生姜をすることで、
・香りがふわっと立つ・後味がすっきりする・食後の満足感が高まる
生姜をたくさん使わなくても、少し違いが出るのが、この方法は面白いです。
豚の生姜焼きは、難しい料理ではありません。
でも、中で起きていることを少し知るだけで、作る時間も、食べる時間も、少しだけ心地よくなります。
焼きすぎないこと。生姜の火の入り方を意識すること。最後に、ほんの少し追い生姜をすること。
今日の生姜焼きが、鉄フライパンでそんな一皿になったら嬉しいです。
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