きなこを作ってみませんか? ―鉄フライパンで作る“きなこ編”―

きなこを作ってみませんか? ―鉄フライパンで作る“きなこ編”―

 

きなこって、買うもの。
そう思っている人、多いですよね。私もそうでした。
正直、まさか自分で作れるなんて思ってもいませんでした。

ところが、「きなこって自分で作れるんだよ」と聞き、試してみたら……これが意外にもできちゃったんです。
もちろん、大豆を炒って粉にするだけ。

だけど、「ただ炒るだけ」と言い切れない、ちょっとした奥行きと面白さがあるんです。
しかも鉄フライパンで作ると、なおさらその奥行きが感じられる。まさに“素材と火加減の対話”です。
そして、そういうひと手間が、いつの間にか自分の時間を彩ってくれたり、お料理の世界を広げてくれたり、家族の食卓の会話を増やしてくれたりする。
きなこがそれをしてくれるのですから、ほんとに不思議です。

 

 

■ 焙煎は意外と“難しい”…でも楽しい!

まず大豆。

鉄フライパンに入れて、弱火でじっくり。
ここでポイントなのが、「弱火」です。
大豆ってとっても焦げやすい。中火だとあっという間に焦げ色がついて、香ばしさというより“焦げ”が勝ってきます。だから焦らず、じっくり。


じっくりって、普段の料理では面倒に感じるかもしれませんが、不思議ときなこ作りだと楽しいんです。
なぜかというと、火加減によって香りが変わるから。

最初はほんのり甘い豆の香り。
しばらくすると香ばしい香り。
さらに進むと、コーヒーのような香りに……。
そう。
コーヒーのような香りになるんです。
実はこの前、私もやっちゃいました。
うっかり火にかけすぎて、焙煎が進みすぎてしまい、焦げ寄りの“ダークローストきなこ”になりました。
はっきり言えば、煎りすぎ。失敗です。でも、これも面白いのです。
失敗から見つかる発見ってあるんです

焦げてしまった大豆から漂ってきた、あの深煎りコーヒーのような香り。
試しに、細かく挽いてコーヒーを淹れる様にしてみたら……
あら?コーヒーみたいに飲めるじゃないか!
香りは深煎り珈琲。
きな粉風味はあるものの味もほんのりコーヒー風味。
もちろん正式なコーヒーには敵いませんが、なんだか“豆の世界”が広がった気がして、失敗も悪くないなと思えてくるのです。

 

 

■ 見た目で判断。大事なのは“好みの色”

とはいえ、焙煎途中の大豆を味見するときは注意が必要です。
めちゃくちゃ熱い。
指先でつまんで食べると危ないので、落ち着くまで触らないのが正解。
だからこそ、色を見て判断します。

●きなこらしい薄いきつね色

●香ばしさが増してきたやや濃い色

●深煎りになりかけの濃い茶色

●焦げっぽいダークブラウン。ここまで来るときな粉としてはきついかな‥‥‥

この中で「自分の好みはどこか?」と探していくのが楽しいところ。

ただし、注意点。

上にも書きましたが、濃い茶色よりさらに進むと、かなり苦いきなこになります。
それも“好み”なら良いのですが、一般的にはきなこの甘い香りが飛んでしまうので、そこまで行く前に止めるのが無難です。
焼き色一つで味が結構変わるのも、まるできなこが小さな職人仕事になる瞬間。
鉄フライパンで作ると熱伝導がダイレクトなので、その変化がよくわかるのも面白いポイントです。

 

 

■ 大豆の皮は、入れてもいいし、入れなくてもいい

炒っていると、大豆の皮がパリパリとはがれてきます。
この皮、入れる?取る?
結論:どちらでもOKです。

皮には食物繊維が多く、ポリフェノール系の抗酸化物質も含まれています。
つまり、栄養価は高い。入れればそれらを丸ごと摂れます。

ただし、皮を入れると少し粗めの食感になることも。
逆に皮をはずすと、きめ細かいきなこになりやすい。
なので、ここは好みで選んで大丈夫。
“家庭ならではのきなこ”が出来上がる瞬間です。

 

 

■ 粉砕はミルミキサーで。断続運転がコツ

粗熱が取れたら、いよいよ粉砕。
ここはミルミキサーやフードプロセッサーが活躍します。

ただし、ずっと回し続けるのではなく、
スイッチを入れたり切ったりして断続的に回すのがコツ。
これは粉の粗さを目で確認しながら仕上げるため。
途中できなこの状態を見てみると、とても面白いんです。

●最初はザラザラした粉

●中盤はしっとりめの粉

●最終的にふんわりとしたきなこ

既製品ほど細かくはならないかもしれませんが、家庭で楽しむにはじゅうぶん。
むしろ、自分で作った“きなこ”の味わいと香りは格別です。

 

 

■ 「買ったほうが早い」だけど“作る価値”がある

きなこなんて買ったほうが早い。
確かにその通りです。
ですが、自分で作るとわかることがあるんです。

・焙煎の香りの変化

・色の変化

・粉砕する音

・手の仕事

・材料の表情

その全部が、きなこを通して感じる“小さな発見”になります。
そして、たとえ少し苦労して作ったきなこでも、
「これは最後まで大事に食べたいな」
そんな気持ちが自然と湧いてきます。
“作るってこういうことかもしれない”と改めて思えるんです。好き嫌いってこういうところから治るかもしれません。

 

 

■ 鉄フライパンと一緒に“育てていく楽しみ”

こうしてきなこを作っていると、鉄フライパンの良さもまた感じます。

熱がじんわり均等に入る。
素材の変化がよく見える。
使い込むほどに味わいが深くなる。
きなこ作りは、ただの調理ではなく、
“鉄フライパンとの時間”でもあるのです。

そして、毎日の料理が少しずつ、自分や家族の味を育てていく。
きなこ作りもその一つ。
「できるかな?」
「どうなるかな?」
「おいしくなるかな?」
そんな気持ちで向き合う時間は、忙しい日々の中でもちょっとした楽しみ。
鉄フライパンを育てるのと同じように、自分の料理も育っていく。
そんな感覚が味わえるのが、手作りきなこの魅力です。

 

 

■ 最後に
きなこって、ただの粉じゃないんです
自分で作ると、その奥に広がる世界が見えてきます。

失敗してもいい。
焦げてもいい。
その失敗の先に新しい発見があるから。
焦がしすぎた大豆で作った“豆コーヒー”のように、
思いもしなかった楽しみがあったりします。

そして何より、自分の手で作ったきなこは
なんだか愛おしくて、最後のひとさじまで大切にしたくなる。

鉄フライパンと一緒に育てる楽しみ。
素材と向き合う面白さ。
食べ物の奥にある豊かさ。
そんな時間を、きなこがそっと教えてくれます。

2025年11月10日