鉄フライパンで料理が“おいしくなる”理由を実体験から解説|素材の見方が変わる道具

**鉄フライパンをお届けして「おいしくなった」と言われる理由。
その“おいしさ”を改めて見つめてみました。**

 

お客様から「おいしくなったよ」と言われることがあります。これは何度いただいても慣れないうれしい言葉です。
「生姜焼きがいつもよりふっくらした」「家族から“おいしい”って言われました」や「母の味に近づいた気がします」
そんな声をいただく事もあります
鉄フライパンをつくる仕事をしていますが、物を作る“ものづくり”ではなくて、もしかして誰かの台所の風景も作っているのかなと気づかされます。

その感覚がとっても新鮮です

今日は「じゃあ、その“おいしさ”って何だろう?」ということを、改めて見つめてみたいと思います。

 

■生姜焼きが“なぜかおいしい日”

生姜焼きを作るとき、どんな厚さのお肉を使いますか?

厚い日もあれば、薄い時もあると思います
材料も味付けも普段通りなのに、香りの立ち方や焼き色が、いつもより良い気がする

「厚い肉の日は、フライパンを振らずにじっくり熱を通すほうが合う」「薄い肉の日は、軽く振りながらスピードよく焼いたほうがおいしい」
それに合わせて、“今日はこのフライパンが気持ちいいな” と自然に手が伸びて、なんて感じで
鉄フライパンを使い続けていると、こういう“小さな違い”をキャッチできるようになる瞬間があって、その積み重ねが料理の深みに変わっていくのを感じるんじゃないのかなと思います

 

■鉄で焼くとおいしさが増す理由


そこで実際、鉄フライパンは“おいしくなる要素”考えてみました
① 温度が落ちない
鉄は蓄熱力が強いので、肉を入れても温度が下がりにくい。特に厚手のタイプ。
そのおかげで、表面の水分がサッと飛び、メイラード反応がしっかり起きて香ばしさが出ます。

② 蒸しになりにくい
鉄と油の特性で余分な水分が残らず、”焼く”という調理が思い通りに決まりやすい。

③ 鉄由来のミネラル効果
微量ですが鉄分が料理に移るので、「なんだか体にもいいことしてる気がする」という安心感も生まれます。
私は日々鉄フライパンを使っていますが「この香ばしさは鉄だからこそなんだな…」と実感することがよくありますが、こう言う事なんじゃないかと思います

 

■鉄フライパンを使っていて、不思議と“素材を見るようになった”

これは私個人の実体験なのですが、鉄フライパンを使い続けていると、料理の仕方が自然と変わってきました。
昔は、「材料を切って炒めて、調味料を入れれば完成」くらいの感覚でした。
でも鉄フライパンを毎日使っていると、どうしても火の入り方や素材の変化に敏感になるんです。

• 野菜の水分量
• 肉の厚み
• 調味料を入れるタイミング
• どの順番で炒めるか

気づけば、“この素材はどうしたら一番おいしくなるんだろう?”と考えるようになっていました。
これには自分でも驚きました。
「鉄フライパンを使うと料理がうまくなる」というより、“素材と向き合う時間が自然と増える”
と言った方が正しいかもしれません。


■料理が変わると、日常まで少しずつ変わってくる

鉄フライパンを使う生活を続けていると、料理だけでなく“日常”にも不思議な変化が出てきます。
素材の気持ちを見るように、人の気持ちも見えるようになったり。火加減を気にするように、物事のタイミングにも気づくようになったり。焦げについてもそうです

焦げは一概にバツではなく、焦げを楽しむと言うか、焦げも丁寧に扱えるようになったり。

鉄フライパンは、再生できる道具 です。
色が変わっても、焼きを入れ直せば戻る。サビが出ても、磨けばまた再生できる。
“ダメだからすぐ捨てる”ではなく、「どう生かせるかな?」を考える癖 が自然と身につくんです。
これが日常のあちこちに広がっていきます。

割れた器の金継ぎや漆継ぎが、その人の暮らしや感性を映すように、使い込んだ鉄フライパンの色や傷も、その人の日々の積み重ねを語り始めます。

道具と向き合う姿勢が変わると、自分の生き方も少しずつ柔らかくなる――そんな実体験を、私は鉄フライパンから教えてもらったり、そんな感じ付き合っていたんです

■育つ道具は“推し”になる

鉄フライパンは育ちます。焼き色、油のなじみ、手触りの変化。どれもその人だけの物語です。

「今日はちょっといい焼き色ついたな」「この料理はこのフライパンじゃないとしっくりこない」そんな小さな発見が積み重なると、フライパンが“相棒”みたいに思えてきます。
使うほど馴染んで、手をかけた分だけ応えてくれる。
そのうち、「このフライパン、なんだかかわいいな」という気持ちがふっと生まれる。

道具を“推す”という感覚は、きっとこういうところから始まるのだと思います。
そしてお客様からの「おいしくなったよ」という声は、その人の台所に、小さな幸せが生まれた証拠のようで、作り手としては本当にうれしい瞬間なんです。


■最後に──あなたの台所では、どんな物語が育つでしょうか?

もし今日、生姜焼きを作るなら、あなたの鉄フライパンはどんな表情を見せてくれるでしょう。

厚い肉の日と薄い肉の日。じっくり焼く日と、軽く動かす日。
その日のあなたの気分と素材によって、きっと違う姿になるはずです。

鉄フライパンは、ただの道具ではなく、暮らしを映すパートナーのような存在。
今日の料理の香りが、明日のあなたの時間を少し豊かにしてくれますように。
そしてあなたのフライパンが、これからもゆっくり育ち、あなただけの物語をまとっていきますように。

 

豚のしょうが焼き
2025年11月17日