鉄フライパンを使う理由

鉄フライパンを使う理由

「どうして鉄フライパンなの?」と聞かれることがあります。

今やお店に行けば、フッ素加工やセラミック加工など、焦げつかず、軽くて扱いやすいフライパンがずらりと並んでいます。

にもかかわらず、あえて鉄フライパンを選ぶ人がいる。その理由は一言では言えません。
健康のこと、料理の楽しさ、そして“懐かしい味”を求める気持ち……。ここでは、鉄フライパンを使う理由を、書きたいと思います。

 

 

「使い捨てってどうなの?」という疑問から


フッ素加工のフライパンは便利です。
本当にスルッと食材がすべる。卵もするって焼けるし、洗うのも簡単。

でも使っているうちに「あれ?」と気づく瞬間が来ます。表面に細かい傷が入って、焦げつくようになってしまう。ひどい場合はコーティングがはがれ、買い替えざるを得ません。
そのとき、ふと疑問がわいてきませんか?
「はがれたフッ素って、どこに行ってしまうんだろう?」
「体に入ってしまったら大丈夫なの?」
実際、フッ素樹脂は調理温度が260℃を超えると分解し始めるといわれています。

260℃というと、チャーハンなど料理中の強火で普通に到達する温度です。中華料理を炒めるときなんかはあっという間にそこまで上がる。

つまり“普通に料理をしているつもり”でも、コーティングが劣化する温度に達してしまうことは珍しくないんです。
技術の進歩で、擦るなどの抵抗性は昔よりは耐久性が増しましたが、熱そのものにはって言うのが現実かもと思います。
だから「どうしてフライパンってこんなに消耗品なんだろう?」と感じてしまうんですね。
その点、鉄フライパンはコーティングがないので「はがれる」という概念がありません。

とはいえ鉄も完璧ではありません。こびりつくことだってあります。そんな時は洗い方を工夫すればまた使えるし、むしろ使い込むほどに油がなじみ、自然な“ノンスティック状態”とは言い過ぎですが、でもそんな風になっていきます。

買い替え前提ではなく、長く育てていける道具――ここに惹かれて使い始める人が多いのです。



健康を考えたときの「鉄フライパン」


次に多いのは「健康にいいから鉄フライパンを」という理由です。

鉄不足は貧血はもちろん、疲れやすさや集中力の低下にもつながります。鉄フライパンを使うと、料理に微量の鉄が溶け出して摂取できる、というのは有名な話です。

ただし、実際にとれる鉄分は意外と少ないのも事実。調理法や食材によって差が大きく、たとえば酸味のある料理(トマトやお酢を使ったもの)は鉄が溶け出しやすいと言われています。

一方で、ただ肉を焼くだけではそれほど鉄分の摂取は増えません。野菜と一緒の方が遥かに効率は良くなります。

とはいえ、アルミやステンレスのフライパンでは鉄分が摂れないのですから、ちょっとでもプラスになるのはうれしいところです。加えて、鉄フライパンで調理した料理を野菜と一緒に食べると、ビタミンCの働きで鉄の吸収率がぐっと上がるという研究結果もあります。

たとえば「鉄フライパンで焼いた豚肉にブロッコリーも一緒に炒める」なんてのも栄養的にも理にかなっているわけです。
もちろん本格的に鉄分を補給したいならサプリメントという選択肢もあります。ただ「食生活から自然に摂れるものは摂る」という姿勢や考え方自体が、健康的な暮らしの第一歩になると思えます。



料理の“熱”を楽しめる


鉄フライパンの魅力は「熱の使い方」がダイレクトに伝わることです。
たとえば、野菜を強火でサッと炒めたときのシャキッとした食感。中火でじっくり焼いた皮のパリッと感。弱火でじっくり火を入れた玉ねぎの甘さ。

鉄フライパンは厚みがあるものは蓄熱性が高いので、火加減の違いが食材の仕上がりにダイレクトに現れます。
フッ素加工のフライパンだと、どうしても火力を抑えて使うのが前提になりますが、鉄は違います。「高温で使ってはいけません」なんて注意書きもありません。

むしろ高温も楽しめるのが鉄フライパン。もちろん持ち手まで熱くなるので注意は必要ですが、「火加減を見極めながら調理する」ことそのものが料理の面白さを感じさせてくれます。
つまり、鉄フライパンは“料理をする”という行為を一段深く体験させてくれる道具なのです。



「昔のほうがおいしかった」の秘密


お客さんから「昔のお母さんの料理のほうがおいしかった」と聞くことがあります。今は調味料もレシピも進化しているのに、なぜか昔の味のほうが心に残っている。
その理由のひとつに“調理道具の違い”があります。

昔は当たり前のように鉄を使っていました。おばあちゃんが作ってくれた料理のコクや、母親が焼いてくれたハンバーグの香ばしさ――あの味わいは鉄の鍋やフライパンによるものだった可能性も大いにあります。

つまり鉄フライパンを使うことは、ただ「便利だから」「健康にいいから」だけではなく、思い出の味を再現する鍵にもなるんです。料理を通して家族の思い出とつながれるというのも、鉄フライパンならではの魅力でしょう。


食事の大切さと暮らし方


「なんだか元気がない」「なんだか調子悪い」
「健康ってなんだろう?」と考える機会が増えてきます。

若いころは、ちょっと体調が悪くても薬を飲めばすぐ治ると思っていた。でも気がつくと、薬を飲む機会や量が増えていく一方で体は思うように回復しない。そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。
本当に体を作っているのは、薬やお医者さんではありません。毎日の食事です。

外食が多いと言う方もいらっしゃるでしょう。
外食が悪いわけではありません。でも外食ばかりだと、好きなものばかり選んでしまい、栄養が偏りがちになります。家での食事こそ、体の土台を整えるためのチャンス。
鉄フライパンを選ぶというのは、単なる調理器具の選択ではなく、「食事を大事にする」という姿勢の表れかもしれません。食材を見て、火加減を考え、体のことを思いながら料理をする――そうした日々の積み重ねが、薬に頼らなくても元気でいられる体をつくるのです。


おわりに


鉄フライパンを使う理由は人それぞれです。


「使い捨てはいやだ」
「ちょっとでも健康に良いことをしたい」
「料理をもっと楽しみたい」
「昔の味をもう一度味わいたい」

どの理由も正解であり、どれも暮らしを豊かにしてくれるものです。
鉄フライパンは、買ったその日から完璧に使いこなせる道具ではありません。ちょっと重たいのもあるし、慣れるまで焦げつくこともあります。コツも必要ですし手間も。

でも、その“手間”さえも料理の一部として楽しめるようになると、毎日のごはん作りがぐっと面白くなるはずです。
今日の食事が明日の体をつくる。そう思ったとき、鉄フライパンを選ぶことは、単なる道具選び以上の意味を持ってくるものになると思います。

野菜炒め
2025年10月27日