鉄フライパンでえのきバターを上手に炒める
鉄フライパンでえのきバターを上手に炒める
えのき茸って、スーパーでよく見かけるし、値段も手頃だし、ついつい買ってしまうキノコのひとつですよね。
あの食感がクセになるんですが、いざ鉄フライパンで炒めてみると「色がなんだか黒っぽくなった…」なんてこと、ありませんか?
とくに鉄フライパンは火の通りが良いので、ちょっと油断すると加熱しすぎになりやすいんです。
でも逆に言えば、鉄フライパンだからこそ、えのきの良さを引き出して美味しく仕上げられるんですよ。
ここでは、炒める時間の目安や色の変化の理由、さらに軸の部分の新しい食べ方まで、ちょっと得するコツをまとめてみました。
特にえのきバターではバターの使い方・温度管理は味と香りを左右するので、しっかり押さえておきました。
えのきはどのくらい炒めればいい?
えのきは見た目も細長く、実は火の通りがめちゃくちゃ早いキノコです。
水分が90%以上を占めているので、加熱するとあっという間にしんなりします。
・白い部分が少し透明になったら、ちょうど良い火の通り。
・逆に、水分がじわっと出てきて茶色っぽくなってきたら、炒めすぎのサイン。
鉄フライパンは蓄熱性が高いので、火を止めても余熱で加熱が続きます。
なので予熱を考えて「ちょっと早いかな?」くらいで火から下ろすのがちょうどいいんです。
炒めると少し黒っぽくなるのはなぜ?
えのきを炒めていると「あれ、ちょっと黒がかってる?」と感じること、ありますよね。
これは単なる焦げとは少し違って、えのき自体の成分の化学反応と、鉄フライパン由来の鉄分が関与する反応が重なって起きることが多いです。
順を追って説明しますね。
1.酵素とポリフェノールによる褐変(かっぺん)反応
えのきにはポリフェノール類や、それを酸化する酵素(ポリフェノールオキシダーゼ:PPO やチロシナーゼの仲間)が含まれています。切ったり加熱したりして細胞が壊れる と、これらの酵素がフェノール類を酸化して「オーキノン」などの中間生成物を作り、最終的に暗い色素(メラニン様物質)へと重合していきます。果物や他のきのこでも見られる、いわゆる褐変反応です。温度や空気(酸素)に触れるほど進みやすいのが特徴です。
2.熱が反応を速める
そして加熱すると酵素反応や化学的な酸化が促進される場合があり、これが「加熱していると色が変わる」一因になります。高温で長時間加熱すると、褐変が顕著になりやすいので注意が必要です。
3.鉄(Fe)との相互作用で色が濃く見えることがある
鉄フライパンで調理すると、フライパン表面の鉄が微量に入り込んだり、鉄イオンが存在する条件ができる場合があります。フェノール類は金属イオンと錯体(chelate)を作ったり、金属が触媒的に酸化反応を助けたりして、生成する色素の色が濃くなったり、全体がやや暗く(黒っぽく)見えることがあります。ほうれん草やなすを鉄鍋で調理すると黒ずむ現象が知られているのと似たメカニズムなんです。
4.まとめると
・切る・ほぐす → 酵素と酸素で酸化が始まる。
・熱で反応が進む。
・鉄があると酸化を促進したり、フェノールと結合して色を濃く見せたりする可能性がある。
このあたりの仕組みは食品化学やキノコ学の研究(キノコや植物の褐変反応に関するレビュー)で報告されています。鉄とポリフェノール類の相互作用が色に影響することは、複数の研究や技術資料で示唆されていますが、まだ資料が少なく「鉄がこうなると必ず黒くなる」と断定できる段階ではないという感じですので、あくまで、条件(温度・酸素・金属イオンの有無など)によって起きやすい現象、という理解が今です。
でも見た目が少し黒っぽくなっても、味や栄養に大きなマイナスはほとんどありません。
また鉄フライパンなら微量の鉄分補給につながる点はむしろメリットになり得ます。気になる場合は火加減を少し緩めたり、仕上げに短時間で調理を済ませる、などの工夫も必要かもと思います。
(参考:キノコや野菜の褐変に関する食品化学のレビュー/金属イオンとポリフェノールの相互作用に関する総説など)
捨てちゃうのはもったいない!軸の部分も楽しもう
えのきの石づき部分、いつも切り落として捨てていませんか?
実はここ、ステーキ風にソテーすると意外なおいしさに変身します。
軸は密度が高くて面白い食感。厚めに切ってオリーブオイルで焼き、塩・胡椒で仕上げると, まるでエリンギやホタテみたいな食感になります。
さらに、天ぷらにすれば外はサクッ、中はコリコリ。ホタテのようにとは言い過ぎですが、普段のえのきとは違う味わいになるので、試してみる価値ありです。食材を無駄なく使えるし、ちょっとした料理の楽しみにもなります
鉄フライパンで炒めると栄養的にもお得
えのき茸の栄養で注目したいのが、ビタミンB群・食物繊維・β-グルカン。とくにβ-グルカンは免疫力をサポートするといわれていて、炒めても失われにくいのポイントだそうです。
さらに鉄フライパンを使うことで、調理中に鉄分が少し溶け出すことが報告されています。
そのため、えのき自体には鉄分が少ないですが、フライパンからの鉄分で補える可能性があり、特に鉄不足が気になる方にはプラスです。
上手に炒めるちょっとしたコツ(バターの温度特性付き)
油の選び方
えのきは水分が多いので、炒めるとべしゃとなるのは、これです。
なので油を上手につかうといいです。
例えばオリーブオイルだと香りが良く、仕上がりも軽やかになります。
バターは最後に!なぜ?温度でどう変わるか
バターを使うと風味が豊かになるのは事実ですが、「いつ入れるか」「どれくらいの温度にするか」が非常に大切です。ここでバターの各温度帯での特性と、「140°Cを超えると焦げる」という理由を見てみましょう。
約20~30℃(室温近く)・・・バターが固まっていて形状を保つ状態。触ると柔らかいがまだ完全に溶けていない。
香りは閉じ込められていて、溶かすとミルクの風味が豊か。冷たい状態だから扱いやすいが炒めには向かない。
約40~60℃・・・半分溶け始める。油脂部分と乳固形分・水分が徐々に分離しやすくなる。
バターのミルキーな甘さと乳脂の香りが出てくる。炒め物に使うとコクが増す。
約90~110℃・・・完全に溶けて液状。水分が飛び始めたり、乳固形分が底に沈んたりする始まり。
香りが良く、炒め物の仕上げに使うとバターの風味が引き立つ。「バター風味」が前面に出るのはこのあたり。
約120~140℃・・・乳固形分のタンパク質が徐々に反応し始める(メイラード反応やタンパク質・糖との褐変など)、水分がさらに減る。煙点に近づく。
香ばしさが増すが、同時に焦げやすく、焦げた乳固形分が苦みになる可能性あり。
140℃を超える・・・バターの乳固形分が焦げ始める。煙が出始め、苦みや焦げ臭が強くなる。バターそのものの香り、風味が損なわれる。
バターの香りよりも焦げた香ばしさや苦みが勝つ。香りが飛んでしまい、本来の風味が消えてしまうことが多い。
バターの煙点・焦げる温度
・通常のバター(未精製のバター、乳固形分あり)の**スモークポイント(煙点)**は 約150°C(302°F)前後とされており、これを超えると乳固形分が焦げ始めるというデータがあります。
・ただし、「Clarified Butter(澄ましバター/ギー)」は乳固形分(水分とミルクのたんぱく質の多く)を取り除いているため、煙点が高く、約約 250°C程度に達すると言われています。これが、通常バターよりも高温調理向きです。
実際の使い方:最後にバターを絡める理由
これらの特性を踏まえると、えのき茸を鉄フライパンで炒める時には:
・最後にバターを加えることで、温度が高くても乳固形分が焦げる直前に投入できる。
・バターを加えたあとはあまり火を強くしすぎず、余熱や弱火で香りを引き出す。
・バターの香りやコクを最大限に生かすためにも、炒め始めから使うのではなく、「仕上げ」に少し入れるのがベスト。
こうすることで、えのきの風味を邪魔せず、バター香が「ふわっ」と香る仕上がりになります
美味しいのを炒めてください。